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最高裁判所第二小法廷 昭和28年(オ)306号 判決 1954年4月30日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

上告理由第一点について。

しかし、仮処分申請事件の口頭弁論において、債務者は一の抗弁として民訴七五九条の特別事情による仮処分取消の申立をなすこともできるのであり、かつその抗弁は、特段の事由のないかぎり、控訴審においても随時提出できるものと解するのが相当である。而して被上告人が原審でなした特別事情による仮処分取消の申立は、なんら所論の如き別個独立の申立としてなされたものではなく、単に本件仮処分申請事件において抗弁としてなされた趣旨であり、原審もこの趣旨に基き本件仮処分申請事件自体の審判をしていることは本件記録上明白である。(殊に、記録によれば原審は所論特別事情による仮処分取消の申立については、なんら独立の申立事件として立件することなく、本件については終始昭和二七年(ネ)第四〇一号仮処分申請控訴事件として審理しているのであつて、これに対し当事者も異議なく弁論していることが明らかであるから、到底所論の如く、右特別事情による仮処分取消の申立を別個独立の申立であると認めることはできない)。所論は、右特別事情による仮処分取消の申立が単なる抗弁ではなく、別個独立の申立としてなされたものであることを前提とする立論であつて、すべて採用に由なきものである。

同第二点および上告状記載の上告理由について。

仮処分によつて保全せらるべき権利が金銭的補償によつてその終局の目的を達し得るかどうかは本案訴訟における請求内容および当該仮処分の目的等諸般の状況に照らし、社会通念に従い客観的に考察し判断すべきものである。(大審院昭和一八年一〇月九日言渡判決、民事判例集一〇二四頁参照)。そして、かかる見地から考察すれば、本件事実関係の下において、原審が金銭的補償の可能を理由として本件仮処分取消の判断をしたのは首肯するに足りる。なお、上告人が原審において「本件仮処分の取消によつて上告人の蒙る損害は評価および程度が測定できなく、したがつてその立証も著しく困難である」旨主張したことは所論のとおりであるが、しかし本件事実関係の下においては、所論上告人の蒙る損害は、未だ右金銭的補償を不可能視するを相当とする程度に著しく立証が困難であるとは認められないから、原審が原審の判断と「反対の見解に立つ上告人の主張は理由がない」と判示したのみで右上告人の主張について特に、判断を示さなかつたことを以て所論のように違法であるとすることはできない。それ故本論旨も採用することができない。

その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」(昭和二五年五月四日法律一三八号)一号乃至三号のいずれにも該当せず、又同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものと認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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